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RFIDリーダーの電波出力比較ガイド

等価EIRP/送信電力の正しい比較と設定

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RFIDリーダーの電波出力比較ガイド

この記事の要約

RFIDリーダーの電波出力は、タグの読取距離やアンテナの利得、国や地域の規制と深く関わります。電波出力の基本概念や単位であるdBm、ERP、EIRPなどの違いを整理し、リーダー選定に必要な知識をわかりやすく解説します。

この記事で分かること

  • 電波出力の単位(mW・dBm・ERP・EIRP)の違いと計算方法
  • アンテナ利得(dBi・dBd・dBic)と電波出力の関係
  • 国別の電波出力制限(日本・北米・欧州)
  • デシベル(dB)の基本と対数スケールの理解
  • 実際の計算例と電波出力比較の実践方法

はじめに

RFIDリーダーの電波出力は、リーダーがタグをどの程度の距離で読み取れるかを左右する重要な指標です。しかし、実際には受信感度やアンテナ特性なども影響を与えるため、電波出力だけでリーダーの性能を一概に評価するのは難しい側面があります。そこで本記事では、電波出力の計算方法や比較のポイント、国別の法規制などを総合的に解説します。

RFID電波出力の基本

RFIDリーダーの電波出力は、一般的にmW(ミリワット)またはdB(デシベル)表記で示されます。タグが受け取る電波の強度を左右する要素ですが、受信感度やアンテナの指向性などの要因も加味しなければ、実際の読取距離を正確に把握できません。

電波出力の単位:mWとdB

電波出力は主にmW(絶対値)とdB(対数スケール)の2種類で表されます。dB表記の場合は比較対象が必要で、RFIDリーダーの場合、1mWを基準とするdBmが用いられます。
例:30dBm=1W、27dBm=500mW

読取距離の決定方法

RFIDリーダーの電波出力にアンテナ利得を加味することで、実効的な電波強度を算出できます。これをERP(実効輻射電力)やEIRP(実効等方輻射電力)と呼び、使用されるアンテナの基準によって数値が異なります。

ERP(Effective Radiated Power)は、ダイポールアンテナ基準の電波出力を指し、EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power)は、等方性アンテナ基準の電波出力を指します。

問題:どちらのリーダーがより遠くまで読取可能か?

  • 30dBm (1.0W) ERPのリーダー
  • 32dBm (1.6W) EIRPのリーダー

下部に答えがあります。

デシベル(dB)の基本

デシベル(dB)は対数関数を用いて2つの値を比較する際に用いられる単位です。たとえば、3dBは2倍、10dBは10倍といった具合に、指数的な関係を簡潔に表現できます。
一般的な目安:
・0dB:基準値と同じ
・3dB:およそ2倍
・6dB:およそ4倍
・10dB:約10倍
・-3dB:1/2倍
・-10dB:1/10倍

dBm⇔Watts変換表

dBmとWattsの対応表
dBm Watts dBm Watts dBm Watts dBm Watts
1 1.3 mW 11 13 mW 21 126 mW 31 1.3 W
2 1.6 mW 12 16 mW 22 158 mW 32 1.6 W
3 2.0 mW 13 20 mW 23 200 mW 33 2.0 W
4 2.5 mW 14 25 mW 24 250 mW 34 2.5 W
5 3.2 mW 15 32 mW 25 316 mW 35 3.2 W
6 4.0 mW 16 40 mW 26 398 mW 36 4.0 W
7 5.0 mW 17 50 mW 27 500 mW 37 5.0 W
8 6.3 mW 18 63 mW 28 630 mW 38 6.3 W
9 8.0 mW 19 79 mW 29 800 mW 39 8.0 W
10 10 mW 20 100 mW 30 1000 mW 40 10 W

RFIDリーダーの電波出力では主にdBm、アンテナ利得ではdBiやdBd、dBicが用いられます。「i」は等方性アンテナ(等方性基準アンテナと比較された利得)、「d」はダイポールアンテナ(基準ダイポールアンテナと比較された利得)、「c」は円偏波アンテナ(基準等方性円偏波アンテナと比較された利得)を基準としていることを示します。また、dBiLが使用されることもありますが、その関係は明確でなく、使用は推奨されません。

アンテナ利得と電波出力を組み合わせて考える

リーダーのアンテナ利得が高いほど、指向性が強まり、狙った方向への電波強度は増します。電波出力(dBm)にアンテナ利得(dBi)を足すことでEIRPが算出され、ダイポールアンテナを基準にした場合は、さらに2.15dBを引いた値がERPになります。

アンテナの種類

  • ダイポールアンテナ:0dBd=2.15dBiに相当。等方性アンテナと比べ、特定の方向の利得が高い。
  • 円偏波アンテナ:dBicで表され、線形アンテナとの組み合わせ時に3dB程度の損失が生じるため、0dBic=-3dBiと換算される。

国別の電波出力制限

規制で使われる「上限値」は地域ごとに基準(伝導出力 / EIRP / ERP)も上限値も異なります。各地域の基準を混同しないよう、以下では基準を明示して整理します。

ヨーロッパ(ETSI EN 302 208 V3.4.1, 2023-12)

欧州の UHF RFID は ERP(ダイポールアンテナ基準)で上限を規定します。

  • 低出力帯 865.6〜867.6 MHz:高出力チャネル 4 本(200 kHz 幅、中心 865.7 / 866.3 / 866.9 / 867.5 MHz)で 2 W ERP(33 dBm ERP)まで(V3.4.1 §4.3.1.1)
  • 高出力帯 915〜921 MHz:高出力チャネル 3 本(400 kHz 幅、中心 916.3 / 917.5 / 918.7 MHz、1.2 MHz 等間隔)で 4 W ERP(36 dBm ERP)まで(V3.4.1 §4.3.1.2)
  • 送信時間制限(V3.4.1 §4.3.7):低出力帯のみ「同一チャネル連続送信 ≤ 4 秒、その後 ≥ 100 ms(0.1 秒)の無送信時間」が課される。高出力帯は連続送信時間の制限なし("There is no specific limit to the length of transmission for interrogators when transmitting in the upper band")。なお V3.3.1 までの「Listen Before Talk(LBT)必須」要件は V3.4.1 で削除され、上記の transmission time limit に置き換えられた

例:27 dBm(500 mW)の出力に 5 dBi のアンテナを使用すると、EIRP は 32 dBm(1.6 W)、ERP は 32 − 2.15 ≒ 29.85 dBm(≒ 970 mW)となります。

アメリカ(FCC 47 CFR §15.247)

FCC は 伝導出力(conducted output power、リーダー端子出力)+ アンテナ利得制限のハイブリッド規制です。純粋な EIRP 規制ではない点に注意が必要です。

  • 902〜928 MHz、ホッピング 50 ch 以上のシステム伝導出力 1 W(+30 dBm)まで(§15.247(b)(1))。25〜49 ch の場合は 0.25 W
  • アンテナ利得 6 dBi 超過時:超過分(dB)と同じ値だけ伝導出力を削減する必要あり(§15.247(b)(4))
  • 結果として EIRP +36 dBm(4 W)が実質上限。例:6 dBi アンテナなら 1 W 伝導 + 6 dBi = 4 W EIRP、9 dBi アンテナなら 0.5 W(+27 dBm)伝導に削減 + 9 dBi = 4 W EIRP(同じ)

例:27 dBm(500 mW)の出力に 5 dBi のアンテナを使用すると、EIRP は 32 dBm(1.6 W)。アンテナ利得は 6 dBi 以下なので伝導出力削減は不要。

日本(ARIB STD-T106 / T107、MIC 告示)

日本の 920 MHz 帯 RFID(パッシブ型)は 916.7〜923.5 MHz の範囲で 2 区分のリーダーが運用されます。アメリカと同様に 空中線電力(伝導)+ アンテナ利得制限のハイブリッド規制です。

  • 特定小電力無線局(ARIB STD-T107、免許不要):空中線電力 250 mW(+24 dBm)まで。絶対利得 3 dBi 以下のアンテナで EIRP 27 dBm(500 mW)まで
  • 構内無線局(ARIB STD-T106、要免許):空中線電力 1 W(+30 dBm)まで。典型的な 6 dBi アンテナで EIRP 36 dBm(4 W)まで
  • 運用条件:高出力帯・LBT 帯の一部チャネルで キャリアセンス(LBT 相当)と送信時間制限が課される。LBT 不要のチャネルもあり、用途に応じて選択。詳しくは UHF帯RFIDの電波利用申請手続き を参照

例:250 mW(+24 dBm)の出力に 3 dBi のアンテナを使用すると、EIRP は 27 dBm(500 mW)。これが特定小電力の上限値です。

問題の答え:実質ほぼ同等

30 dBm ERP は EIRP に換算すると 30 + 2.15 ≒ 32.15 dBm EIRP となるため、「30 dBm ERP のリーダー」のほうが「32 dBm EIRP のリーダー」より約 0.15 dB(≒ 3.5 % の電力差)大きい計算です。実用上は無視できる差で、実質的に同等の読取距離が期待できます。基準(ERP / EIRP)が混在した規格の比較では、必ず統一の基準に換算してから判断してください。

電波出力計算に用いられる公式

  • ERP(dBm)=RF出力(dBm)+アンテナ利得(dBi)-2.15dB
  • EIRP(dBm)=RF出力(dBm)+アンテナ利得(dBi)
  • dBi=dBic-3dB(RFID)
  • dBi=dBd+2.15dB

電波出力計算

mW ⇄ dBm 変換

ERP ⇄ EIRP 変換

RFIDリーダーのアンテナ利得と電波出力を理解するためには、異なる単位とその意味、および国による法律の違いを理解する必要があります。これにより、RFIDリーダーの性能を正確に評価し、適切なリーダーを選択するための判断材料を得ることができます。

RFIDリーダーの出力設定でお困りですか?

電波出力の計算やリーダー選定でお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。用途に最適なリーダーとアンテナの組み合わせをご提案いたします。

FAQRFID電波出力に関するよくある質問

dBmとmWの違いは何ですか?
mW(ミリワット)は電力の絶対値を表す単位で、dBm(デシベルミリワット)は1mWを基準とした対数スケールの単位です。例えば、30dBm=1000mW(1W)、27dBm=500mW、20dBm=100mWとなります。対数表記により、広い範囲の電力値を扱いやすくなります。
ERPとEIRPの違いは何ですか?
ERP(実効輻射電力)はダイポールアンテナを基準とし、EIRP(等方性実効輻射電力)は等方性アンテナを基準とします。同じ実効出力でも、EIRP値はERP値より約2.15dB高くなります(例:30dBm ERP ≒ 32.15dBm EIRP)。
日本のRFID電波出力規制はどうなっていますか?
日本の 920 MHz 帯 RFID(パッシブ型、916.7〜923.5 MHz)は 2 区分のリーダーで運用されます。(1) 特定小電力無線局(ARIB STD-T107、免許不要): 空中線電力 250 mW(+24 dBm)まで、絶対利得 3 dBi 以下のアンテナで EIRP 500 mW(+27 dBm)まで。(2) 構内無線局(ARIB STD-T106、要免許): 空中線電力 1 W(+30 dBm)まで、典型的な 6 dBi アンテナで EIRP 4 W(+36 dBm)まで。一部チャネルでキャリアセンス(LBT 相当)と送信時間制限あり。用途・読取距離・運用場所の要件に応じてカテゴリを選択します。
アンテナ利得が高いほど読取距離は伸びますか?
はい、アンテナ利得が高いほど特定方向への電波強度が増し、読取距離は伸びます。ただし、利得が高いアンテナは指向性が強くなるため、読取範囲は狭くなります。用途に応じて利得とビーム幅のバランスを考慮する必要があります。
dBi、dBd、dBicの違いは何ですか?
dBi は等方性アンテナ基準、dBd はダイポールアンテナ基準(dBi = dBd + 2.15)、dBic は等方性円偏波アンテナ基準の利得表記です。RFID の典型構成では「リーダー側が円偏波(dBic 表記)、タグ側が線形偏波」のため偏波ミスマッチで約 3 dB の損失が生じ、線形偏波タグから見た実効利得は <strong>dBi ≒ dBic − 3 dB</strong> となります(タグ側も円偏波の場合は損失なし)。RFID では円偏波アンテナが多いため、dBic から dBi への換算(減算)が重要です。
RFIDリーダーの電波出力を上げれば読取距離は伸びますか?
電波出力を上げれば一般的に読取距離は伸びますが、日本では特定小電力(伝導 250 mW 以下/EIRP 500 mW 以下、ARIB STD-T107)や構内無線局(伝導 1 W 以下/EIRP 4 W 以下、ARIB STD-T106)の上限が法令で定められています。上限内でアンテナの選定や設置位置の最適化も重要です。
RFIDリーダーの仕様書に記載されている出力値の見方を教えてください
仕様書にはコンダクテッドパワー(リーダー端子出力)とEIRP(アンテナ込みの実効出力)のどちらかが記載されています。コンダクテッドパワーの場合、接続するアンテナの利得とケーブル損失を加味してEIRPを計算する必要があります。メーカーにより表記方法が異なるため、比較時は必ず同じ単位に揃えてください。

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