はじめに:RFIDアンテナが果たす役割
RFIDアンテナは、リーダーからの電波をタグに伝送・受信する役割を担う重要な要素です。その性能がシステム全体の読取精度や稼働効率に直結するため、導入時には入念な検討が必要となります。本ガイドでは、RFIDアンテナ選択における主要なポイントをまとめ、最適なシステム設計のヒントを提供します。
1. 周波数帯:国別の規制と互換性
地域に応じた周波数帯の選び方
RFIDシステムで用いられる周波数帯は国や地域によって異なり、アンテナ・リーダー・タグが同じ周波数帯で動作することが重要です。日本では916.7~923.5MHz、北米では902~928MHzなど、主要な周波数帯は下表のとおりです。
| 地域 | 周波数帯 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本 | 916.7~923.5MHz | 技適に準拠 |
| 北米 | 902~928MHz | FCC規格 |
| 欧州 | 865.6~867.6MHz<br>916.1~919.9MHz | ETSI規格 |
| グローバル | 860~960MHz | 幅広く対応 |
複数の国で運用する場合はグローバル周波数帯が便利ですが、国内での使用のみであれば、その国の規制に準拠した周波数帯を選ぶのがベターです。また、技適など各国の規制を満たしたアンテナであることを確認しましょう。
2. サイズ:読取範囲と設置スペース
アンテナのサイズは読取範囲に影響する大きな要因です。数cmの大きさから1m大くらいのものまであります。大きいほど読取範囲が広い傾向がありますが、特殊設計のアンテナでは小型でも十分な読取距離を確保できる場合があります。設置環境に合ったサイズを選ぶことが大切です。
アンテナサイズと読取範囲
設置スペースに合わせたアンテナ選択が重要です。大型アンテナは読取範囲が広いですが、小型でも特殊設計により十分な性能を発揮するものもあります。
3. アンテナ利得:プロジェクト要件に合わせた選択
アンテナ利得は、アンテナがどれだけのエネルギーを放射するかを示す指標で、デシベル(dB)で表されます。2つのパワーの比の測定の対数単位です。
アンテナ利得はdB、dBi、dBd、dBm、dBWなどのいくつかの異なる測定単位として表すことができ、これらの単位は異なる意味を持つため、比較する際に注意が必要です。
プロジェクトの要件に基づいて、必要な読取範囲を考慮し、適切な利得を持つアンテナを選択しましょう。
4. 指向性:ビームの向きとカバー範囲
指向性は、アンテナがエネルギーをどのように送信または受信するかを示し、利得とビーム幅に密接に関連しています。
指向性アンテナ
特定の方向にエネルギーを集中させる能力があり、一方向に集中したビームを持っています。タグの読み取りを行うために特定の方向に電波を集中させます。
無指向性アンテナ
広範囲の読取範囲を持ち、1つの平面で360度の範囲をカバーします。ドーナツ型の3D放射パターンを生成し、タグがすべて同じ高さにある環境に適しています。
5. 偏波:円偏波・直線偏波の違い
RFIDアンテナの偏波は、電波の放射と受信のパターンを制御する重要な要素です。偏波は、電波が直線の単一の方向で振動するか、円形のパターンで回転するかを決定します。
円偏波アンテナ
タグの位置や角度が不明な場合に適しています。電波が円形のパターンで放射されるため、タグの位置に関係なく読み取りが可能です。右旋円偏波(RHCP)と左旋円偏波(LHCP)があります。
直線偏波アンテナ
タグの位置と角度が一定である場合に最適です。電波が一定の方向で放射されるため、特定の範囲内で高い精度の読み取りが可能です。
6. ビーム幅:電波の範囲と精度のバランス
ビーム幅は、RFIDアンテナが放射する電波の範囲を示し、利得と密接に関連しています。これは、RFIDシステムの読み取り精度と範囲に大きな影響を及ぼします。
利得が高いアンテナは通常、狭いビーム幅を持っており、これにより読み取り距離が長くなりますが、カバーする領域は限定されます。逆に、利得が低いアンテナは広いビーム幅を持っており、広い領域をカバーしますが、読み取り距離は短くなります。
2Dおよび3D放射グラフは、アンテナのビームパターンを視覚的に示すツールで、アンテナによって生成される電波フィールドの「マップ」です。これらのグラフは、アンテナがどのように電波を放射し、どの程度の範囲をカバーするかを示します。
2D放射パターン
2D放射パターンは、水平面または垂直面における電波の放射特性を平面的に表示します。メインローブ(主ビーム)の方向と幅、サイドローブの大きさを確認できます。
3D放射パターン
3D放射パターンは、アンテナの電波放射特性を立体的に可視化します。指向性アンテナは特定方向に集中したビーム、無指向性アンテナはドーナツ型のパターンを示します。
7. 耐久性と防塵・防水性能:屋内外での使用を想定
RFIDアンテナの選択において、屋内または屋外での使用、および環境条件に対する耐久性が重要な要因となります。RFIDアンテナは、国際保護マーク(IPコード)によって、水やほこりなどの外部要因に対する耐性が評価されます。
| 第一記号(固形物) | 保護内容 | 第二記号(水) | 保護内容 |
|---|---|---|---|
| 無保護 | 無保護 | ||
| 1 | 直径50mmより大きい固形物 | 1 | 鉛直に滴下する水 |
| 2 | 直径12mmより大きい固形物 | 2 | 鉛直から15°以内の滴下 |
| 3 | 直径2.5mmより大きい固形物 | 3 | 鉛直から60°以内の散水 |
| 4 | 直径1.0mmより大きい固形物 | 4 | 任意の方向からの散水 |
| 5 | 塵埃の侵入制限 | 5 | 任意の方向からの水の噴流 |
| 6 | 防塵(完全保護) | 6 | 強い噴流に対する保護 |
| - | - | 7 | 一時的な水没に対する保護 |
| - | - | 8 | 長時間の水没に対する保護 |
例えば、IP54とは塵埃の侵入制限と任意の方向からの散水に対する保護、IP65とは防塵(完全保護)と任意の方向からの水の噴流に対する保護になります。
8. 価格:予算と必要機能のバランス
アンテナの価格はサイズやスペックによって幅があります。数千円程度の小型アンテナから数十万円クラスのハイエンド製品まで存在しますが、多くは3万円~8万円前後のものが主流です。プロジェクトの要件と予算を鑑みたうえで最適なものを選択しましょう。
9. ニアフィールド vs. ファーフィールド:読取範囲の違い
RFIDアンテナは、主にニアフィールド(近距離)とファーフィールド(遠距離)の2つのカテゴリに分類されます。
ニアフィールドアンテナ
磁気または電磁誘導を使用して近くのタグと通信します。通常、30cm以内の短い距離で効果的で、精密な位置制御が可能です。
ファーフィールドアンテナ
平面波を使用して、最大10m以上の距離でRFIDタグと通信することができます。広範囲の読み取りが可能ですが、多くのタグを同時に読み取る可能性があります。
長い読取範囲が常に最適ではなく、特にスペースが限られている場合、読取範囲が広すぎると、多くのタグを一度に読み取ってしまう可能性があります。プロジェクトのニーズに基づいて適切な読取範囲を持つRFIDアンテナを選択することが重要です。
10. 内蔵型または外付け型:運用形態に合ったスタイル
アンテナをリーダーに内蔵することでデバイスをコンパクトにまとめられ、ケーブル配線の手間も減らせます。持ち運びや見た目のスマートさが求められる小売・デスクトップアプリケーションに向いています。
内蔵型アンテナ
スペース効率が良く、ケーブル接続の手間を省き、モバイルシステムに適しています。コンパクトで使いやすく、小売りやデスクトップアプリケーションに最適です。視覚的にも洗練されています。
外付け型アンテナ
カスタマイズ可能で、特定のアプリケーションにおいて多くのオプションと柔軟性を提供します。設置位置を自由に選択でき、利用環境に合わせてカスタマイズしやすいのがメリットです。
まとめ:最適なアンテナ選定のために
RFIDアンテナの選定は、周波数帯、サイズ、利得、指向性、偏波、ビーム幅、耐久性、価格、ニアフィールド/ファーフィールド、内蔵型/外付け型の10のポイントを総合的に検討することで、プロジェクトに最適なソリューションを見つけることができます。