GS1の新標準「TDS 2.3」とWeb対応RFIDとは
RFIDは、「現場でモノを一括・高速に読み取れる」点が最大の魅力です。一方で、サプライチェーン全体で使おうとすると、 「読めたEPC(ID)を、どのシステムの、どのデータに結びつければ良いのか?」がボトルネックになりがちです。
そこで登場したのが、GS1のEPC Tag Data Standard(TDS)2.3で追加されたWeb対応(web-resolvable)EPCの考え方です。 RFIDタグの中に、IDだけでなく“Webの行き先(ドメイン名)”も持たせられるようになり、読み取った情報をURLとして扱いやすくなります。
何が変わった?:EPCに「ドメイン名」を入れられる“++”スキーム
TDS 2.3では、従来のEPCスキームを拡張した「++(ダブルプラス)」スキームが追加されました。 代表例として、SGTIN++ / DSGTIN++ などがあり、既存の「+」スキームをベースにしつつ、シリアル番号の後ろに“カスタムドメイン名”をバイナリで格納できるように拡張されています。
ポイント: RFIDタグに“自社ドメイン(または指定ドメイン)”を入れられると、読み取り結果をGS1 Digital Link(URL)へ変換しやすくなります。 つまり、RFIDが「現場の識別」だけでなく「Webサービスへの入口」としても機能しやすくなります。
GS1 Digital Linkとの関係
GS1 Digital Linkは、GTIN(JANコード)などのGS1識別コードをURL形式(GS1 Digital Link URI)で表し、 そこから商品情報ページ、取扱説明書、トレーサビリティ情報などの関連する情報・サービスへ誘導するための標準です。 なお、Digital Link URI自体は「サービスのURL」ではなく、必要に応じてリゾルバ(解決サービス)がリダイレクトすることで、 利用者(消費者/取引先/現場)に合わせて行き先を切り替えられます。
なぜ重要?:「データの取りに行き先」が決まると、共有が一気に楽になる
サプライチェーンでは、荷主・製造・3PL・卸・小売など複数の当事者が関わります。 しかし現実には、「どこにデータがあるのか分からない」「相手のシステムに入りづらい」ことが多く、 せっかくRFIDで“読める”ようになっても、データ共有が進まないケースがあります。
| 観点 | 従来(ID中心) | TDS 2.3(Web対応) |
|---|---|---|
| 読み取れるもの | EPC(識別子) | EPC(識別子)+ドメイン(行き先の手がかり) |
| 次のアクション | システム側で“どのDB/どのAPIか”を個別設計 | URLとして解決しやすく、外部共有の導線を作りやすい |
| データ共有 | 関係者ごとの接続・取り決めが増えがち | 「まずここへ問い合わせる」が明確になりやすい |
| 現場導入 | RFIDは導入済でもデータ連携が停滞しやすい | 軽量な参照(問い合わせ)からスモールスタートしやすい |
物流単位が“URL化”すると何ができる?:パレット・ケース・リターナブル容器
TDS 2.3の考え方は「個品」でも活用できますが、まず効果が見えやすいのは「物流単位」(パレット・ケース・リターナブル容器など)です。 例えば、パレットやケースが“Webでアクセスできる住所”を持つと、受領・検品・仕分け・保管・出荷の各地点で、 「この物流単位の正体は何で、今どんな状態か」を取得しやすくなります。
「問い合わせ先」が一目で分かると、連携が回り出す
読取地点(ドックドア、ゲート、仕分けレーンなど)でRFIDを読み取ったときに、 「このIDに紐づく情報は、どのドメイン(どの窓口)へ問い合わせれば良いか」が明確だと、 関係者が増えても「情報の置き場所」が迷子になりにくくなります。
盗難・誤出荷・不正流通対策での価値
物流・小売では、盗難だけでなく、誤出荷や不正な持ち出しなど「正しい流れから外れる動き」を減らすことが重要です。 Web対応RFIDは、物流単位や商品群の移動を“自動的に記録・参照しやすくする”ことで、 抑止・早期検知・事後の照合といった実務を支えます。
- 輸送中・倉庫内:ゲート読取のログを“追跡のパンくず”として活用しやすい
- 店頭以降:未購入のまま持ち出された可能性がある場合に、シリアル単位で照合しやすい
- 回収局面:押収・回収した物品の出所確認を迅速化できる
DPP(デジタルプロダクトパスポート)とトレーサビリティへの波及
EUで議論・整備が進むDPPは、製品のライフサイクル情報(原材料、製造、修理、リサイクルなど)を、 標準化された形で参照できるようにする考え方です。TDS 2.3は、こうした要件を背景にWeb対応RFIDが進んだ流れの一部と捉えられます。
さらに、食品分野では各国規制や業界要請により、トレーサビリティの高度化が求められています。 RFIDと、共有可能な参照先(Web)を組み合わせることで、取引先や監督当局への情報提供を効率化できる余地があります。
導入の考え方:今から準備したい5ステップ
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対象を決める(個品か、物流単位か)
まずはパレット・ケース・リターナブル容器など、効果が出やすい対象から検討します。 -
ID体系を決める(例:SSCC / SGTIN など)
GS1識別コードのどれを主キーにするかを決め、既存の運用(ラベル、EDI、WMS/ERP)と整合させます。 -
ドメイン/リゾルバ設計(“問い合わせ先”を作る)
自社ドメインで運用するか、パートナーと共同で運用するかを決めます。リゾルバで行き先を切り替える設計も重要です。 -
タグの書き込み(コミッショニング)とデータ連携
エンコード仕様(TDS 2.3の“++”)に沿ってタグに書き込み、読取データをどのAPI/DBに接続するかを整理します。 -
運用・権限・セキュリティ
すべてを公開する必要はありません。取引先向け/社内向け/消費者向けで表示を分ける、認証を入れる、ログを取るなどの運用が必要です。
シェン・ヒーローが支援できること
シェン・ヒーローは、RFIDリーダー/アンテナ/タグ選定から、現場要件に合わせたシステム設計・PoCまで支援しています。 TDS 2.3のような新標準は「仕様理解」と「現場実装」の間にギャップが生まれやすいため、 現場導線(どこで読むか)→ID設計→データ連携→運用を一気通貫で整理することが重要です。
まとめ
TDS 2.3によって、RFIDは「現場で読む」だけでなく、「Webへつなぐ」ことを前提とした標準へ一歩進みました。 特に、物流単位の“URL化”は、サプライチェーンのデータ共有、盗難対策、トレーサビリティの実務を変える可能性があります。 重要なのは、タグやリーダーだけでなく、“問い合わせ先(ドメイン/リゾルバ)”と、共有するデータ設計をセットで考えることです。